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平成30年度診療報酬改定の背景と概略を、厚生労働省担当官が詳説!
~第37回 食事療法学会レポートVol.1~

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 主に医療機関に勤務する管理栄養士・栄養士が集う食事療法学会。今回(第37回)は3月3日(土)、4日(日)に沖縄県那覇市に690人が集い、「ゆいまーるの心で栄養ケア」のテーマのもと、平成30年度診療報酬改定における重要課題である「地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化、連携の推進」に向けて、講演、会員対話、一般演題等のプログラムが行われました。

 ゆいまーるとは、「つながり連携して、共に働く」を意味する沖縄の島言葉。医師や看護師等の他職種との連携とともに、また医療施設から介護施設、在宅へと管理栄養士・栄養士同士の連携を重視する意味が込められています。

各改定項目に至った
背景や研究結果の理解が重要

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 もっとも注目を集めた講演が、厚生労働省担当官による情報提供「平成30年度診療報酬改定(栄養関係)の概要」。2年前の同学会では平成28年度改定として栄養食事指導料の大幅見直しについて説明いただきましたが、今回も、厚生労働省保険局医療課課長補佐で、管理栄養士の資格を持つ塩澤信良氏に説明していただきました。塩澤氏はまず、「診療報酬が今回はこのように改定されたという"出口"だけでなく、どのような研究データが根拠となって"出口"につながったのかという流れも、皆さんにぜひ知っていただきたいと思います」と前置きしました。

 そして、今改定は介護報酬との同時改定であることを挙げ、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年を前にした「事実上最後の同時改定」であると強調しました。実際には2024年も同時改定が予定されているものの、その時点での対応では手遅れになってしまう可能性もあることから、「人生100年時代を見据えた社会の実現と、どこに住んでいても適切な医療・介護等を安心して受けられる社会の実現(地域包括ケアシステムの構築)に向けて、今回の改定は極めて重要な意義を持ちます」と話しました。

地域包括ケアシステムの構築に向けて
医療と医療、医療と介護の"連携"重視

 改定項目に関してはまず、地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みの強化として、「退院時共同指導料」について説明しました。
「入院医療機関と退院後の在宅療養を担う医療機関との間で行われる退院時共同指導で評価される職種は、これまでは医師、看護師等でしたが、今回の改定により、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、社会福祉士が追加されました。これまで医師、看護師等以外の職種も退院時共同指導に参画したほうがよいと思われたものの、そうした例について論文等で示されたものはなかなかありませんでした。ようやく見つけたのが2016年の学術誌の報告で、医師、看護師、管理栄養士等が参画した退院時共同指導の例を中央社会保険医療協議会(中医協)に提示することができました。皆さんが"良い"と思って医療現場で実施されていることは、論文等の形でしっかり"見える化"しておいていただくことが非常に重要となります」

 塩澤氏は、退院時共同指導の内容で栄養に関するものの例として、食事形態の確認や病院と自宅での活動量の違いを考慮した必要エネルギー量の検討等を挙げ、「再入院の防止のためには、退院後の生活を見据えた実行可能性の高い栄養管理の提案が鍵となりますので、管理栄養士も退院時共同指導に積極的に参画するようにしてください」と述べました。。

 続いて、塩澤氏は中医協資料を示しつつ、(公社)日本栄養士会が平成28年に実施した「全国病院栄養部門実態調査」では、入院中の栄養管理に関する情報文書を主に管理栄養士が作成して転院先(医療機関、介護保険施設等)に提供している病院が約3割あり、摂食嚥下機能低下、経管栄養、低栄養等の患者に関するものが多いという実態が示されていること、また、栄養情報の提供に関しては、日本栄養士会雑誌の論文で、栄養情報提供書の例も含めて詳しく示されていることを挙げ、こうした調査結果や論文をもとに、今回、退院後の診療等の療養に必要な情報提供として、栄養管理に関する情報提供が評価対象となったことを説明しました。

 そして、提供の際の様式例については、(公社)日本栄養士会(医療事業部、福祉事業部)、全国国立大学病院栄養部門会議、(一社)日本健康・栄養システム学会、(一社)日本摂食嚥下リハビリテーション学会、(一社)日本静脈経腸栄養学会、(一社)日本病態栄養学会などの関係者の間で議論が行われ、厚生労働省に提案があったと説明し、各団体、学会の尽力に対し感謝の言葉を述べるとともに、その様式例を紹介しました。最終的な様式例については、近日中に公表予定の通知(編注:3月5日に厚生労働省ホームページで公表。「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(平成30年3月5日保医発0305第1号)別添1の別紙様式50の「看護及び栄養管理等に関する情報(2)」)を確認し、この様式例をもとに、他施設への情報提供を積極的に行ってほしいと訴えました。また、栄養情報の提供に当たっては、嚥下調整食については、各医療機関とも、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の学会分類コードの記載が必要になることを指摘しました。

 さらに今回、介護報酬改定にも携わった塩澤氏は、介護報酬で新設された「再入所時栄養連携加算」にも触れて、「今日この学会にいらしているのは医療の方が大半だと思いますが、介護保険施設の方から連絡があった場合には快く対応するようにしてください」と付け加えました。

※再入所時栄養連携加算:介護保険施設の入所者が医療機関に入院して、施設入所時とは大きく異なる栄養管理(経管栄養又は嚥下調整食の新規導入)が必要となった場合に、介護保険施設の管理栄養士が当該医療機関の管理栄養士と連携して(退院時指導やカンファレンス等に同席して)再入所後の栄養管理に関する調整を行った場合に評価される。400単位/回。

回復期リハ、緩和ケアでの
管理栄養士のニーズが顕在化

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 回復期リハビリテーションに関しては、アウトカム評価のさらなる推進を図る観点から、病棟入院料の評価体系が見直されました。これまで3段階であった入院料は今回から6段階に分かれ、入院料1では「当該病棟に専任の常勤管理栄養士が1名以上配置されていることが望ましい」(努力義務)とされ、管理栄養士がリハビリテーション実施計画書等の作成に参画することや、計画に基づく栄養状態の定期的な評価、計画の見直し等を行うことが要件化されました。

 この点について塩澤氏は、「回復期リハビリテーション病棟の入院患者のうちBMI18.5未満の患者が約2割強もいるという調査結果や、低栄養状態で同病棟に入院した脳卒中高齢患者に対し管理栄養士が理学療法士とともにリハビリテーションの計画作成等に参画してリハビリの実施に併せて個別の栄養管理を行うと、約9割の患者で栄養状態が改善するといった論文データを中医協に示し、この改定に至りました。このように、報酬改定に向けた議論では、ストラクチャー、プロセス、アウトカムのそれぞれがきちんと論文等の形で"見える化"されていることがポイントとなります。今回の回復期リハビリテーション病棟の例は、急性期病棟等、他の領域の皆様にも大いに参考になるのではと思います」と説明しました。

 緩和ケア診療加算等の要件の見直しでは、がん患者に対する栄養食事管理の取り組みが評価され、緩和ケア診療加算を算定しているがん患者について、緩和ケアチームに管理栄養士が参加して患者の症状や希望に応じた栄養食事管理を行った場合に、個別栄養食事管理加算(70点/日)が上乗せできることになりました。塩澤氏は、「国内外の研究結果から、がん患者のQOLには栄養摂取量や体重減少が大きく影響していることや、管理栄養士が緩和ケアチームに参画して介入した場合に経口栄養摂取量が増えるといったことが示されており、これらのデータをもとに、個別栄養食事管理加算の新設に至りました。なお、今回の改定では、個別栄養食事管理加算の対象にはなりませんでしたが、緩和ケア診療加算の対象として末期心不全の患者が追加されています。緩和ケア診療加算を算定する病院の管理栄養士の方々には、緩和ケアチームの一員として、末期心不全の患者の栄養管理にもぜひ積極的に取り組んでいただきたいと思います」と期待を述べました。

 塩澤氏は最後に、診療報酬と介護報酬の同時改定の担当者として、現場の管理栄養士・栄養士に向けて、3つの課題を示しました。 

 「1つは、医療施設間、医療機能間、医療・介護・障害福祉間の相互理解や共通言語化をどのように推進していくかです。共通言語化の例としては、嚥下調整食における学会分類コードの使用があると思います。2つめは働き方改革の流れのなか、他職種との業務の共同化、移管等を含むチーム医療等の推進にどのように対応していくかです。管理栄養士・栄養士の業務内容や成果について、他職種に理解してもらうための"見える化"が重要となってきます。3つめは、EBPM(Evidence-Based Policy Making:エビデンスに基づく政策立案)の流れにどのように対応していくかです。今回の改定でもそうでしたが、医療・介護とも、現場の取り組みを論文で示していただくことがますます重要となります」

 診療報酬改定については、厚生労働省から公表される告示、通知、事務連絡等の情報を随時確認するようにしましょう。現場の管理栄養士・栄養士には、今回の改定で期待されている管理栄養士・栄養士の役割を十分に果たしていくことに加え、次回以降の改定に向けて、現場での取り組みの成果を社会に広く発信していくことが求められます。学会発表の経験がない人は学会発表に、学会発表の経験はあっても論文発表の経験がない人は論文発表にぜひ挑戦しましょう。

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