【スペシャル対談】平成30年度介護報酬改定!ポイントは3つの加算の新設、入所も通所も栄養支援体制を強化、医療との連携も
2018/03/30
厚生労働省老健局老人保健課(保険局医療課課長補佐) 塩澤信良氏 ×(公社)日本栄養士会福祉事業部 企画運営委員長代理 加藤すみ子氏
3月4日(日)、沖縄県那覇市で開かれた第37回食事療法学会会場にて、平成30年度介護報酬改定に関わった厚生労働省老健局老人保健課(保険局医療課課長補佐)の塩澤信良氏(写真右)と(公社)日本栄養士会福祉事業部企画運営委員長代理の加藤すみ子氏のスペシャル対談の場を設けました。今改定の栄養に関する重要なポイントを塩澤氏に解説していただくとともに、介護領域の管理栄養士が現場でどのような取り組みをしていくべきか、今後の福祉栄養士の課題についてお二人にお話しいただきました。
特筆は、栄養スクリーニング加算の新設
栄養改善加算、外部管理栄養士でも可に
―栄養改善の取り組みの推進のため、通所施設(通所介護、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護、通所リハビリテーション)において栄養改善加算が管理栄養士1名の配置要件から、外部の管理栄養士の実施でも算定可能となりました。
塩澤:通所施設では管理栄養士が雇用されていない施設が大半です。しかし、通所利用者には低栄養の方、低栄養のリスクのある方が3~4割程度いらっしゃることがわかっています。平成25年度に実施した厚生労働省の調査事業では、通所施設が栄養改善加算を算定しない理由は「栄養改善サービスが必要と思われる利用者がいない」と「必要な専門職が人材不足で配置できない」がほぼ同率で最も多いという結果でした。こうした結果から、通所施設側で利用者の栄養状態を適切に把握できていないという課題と、栄養改善サービスを担う管理栄養士が不足しているという課題があることがわかりました。
そこで、今回の改定では、通所利用者の栄養状態を把握するために、管理栄養士以外の介護職員等でも実施可能な栄養スクリーニングに対する評価(栄養スクリーニング加算)を新設するとともに、栄養改善加算の要件を緩和して、通所施設の管理栄養士のほか、他の介護事業所、医療機関または栄養ケア・ステーションに在籍している外部の管理栄養士が実施した場合でも評価対象としました。これにより、通所利用者への栄養改善の取り組みが進むものと期待しています。
加藤:通所系のサービス事業所には食事の提供がない施設もあり、あまり栄養介入ができていないのが現状です。ケアマネジャーさんには「食事が大切」ということを理解されている方は多く、IADL(Instrumental Activity of Daily Living;手段的日常生活動作)で食事が自立しているかどうかのチェックはしてくださるのですが、私たちも、相談を受けた際に対象者の方が、いつ・何を・誰と・どこで・どれくらい食べているのか?といった情報が非常に少ないのが現状です。それゆえ、外部の管理栄養士の実施でも算定できるようになったことは非常にありがたいです。
――"外部"の管理栄養士はどのように通所施設にアプローチしたら良いと考えられるでしょうか。
加藤:ケアマネジャーさんが栄養のことを相談したいときに、管理栄養士がどこにいるのかわからないというのは、残念ながらよく聞く話です。高齢者の栄養状態については介護保険施設(老健や特養などの入所施設)の管理栄養士がもっとも詳しいので、彼女たちが担当できたら良いと思います。並行して、栄養ケア・ステーションの体制も整えていきたいと考えています。
塩澤:各都道府県栄養士会で通所施設の栄養改善加算を担当できる介護事業所、医療機関、栄養ケア・ステーションの一覧を作成し、ホームページに掲載したりケアマネジャーの団体等にお知らせしたりするのもいいかもしれませんね。
加藤:先ほど「入所施設の管理栄養士が通所も担当できたら」と話しましたが、たとえば管理栄養士1名配置の入所施設が、地域貢献のために0.5人の管理栄養士増員を働きかければ、交代で近隣の通所施設に出向くということが可能だと思います。また、地域の医療機関や介護事業所などと手を結んで、お互いに助け合っていくことが、まさに地域包括ケアシステムにつながると思います。
――先ほども話に上がりましたが、通所施設等では、管理栄養士以外の介護職員でも実施可能な「栄養スクリーニング加算」も新設されました。
塩澤:通所利用者の栄養状態を把握し、低栄養状態の方、低栄養状態のリスクのある方を抽出することを目的としています。栄養スクリーニング加算は、栄養スクリーニングを行うだけにとどまらず、ケアマネジャーに栄養状態に係る情報を文書で共有するところまでが評価対象となっています。
加藤:栄養スクリーニングを他職種の方もできるようになれば、低栄養の予防対策を広げられると思います。全体的にふるいにかけることによって、栄養問題が大きくなる前に拾い上げることができるようになります。そして、ケアマネジャーさんとの連携により管理栄養士が早期に介入することで、先々に起こりうる栄養問題を未然に防ぐことができれば介護予防につながると思います。
低栄養リスク改善加算も新設
栄養マネジメント加算要件が緩和
――一方、介護保険施設の入所者向けのものとして、新たに低栄養リスク改善加算が新設されました。
塩澤:栄養マネジメント加算はすでに9割近くの施設で算定されているのですが、経口移行加算、経口維持加算の算定率は3~4割程度と推定され、あまり高くない状況です。経口移行加算、経口維持加算については、施設側のマンパワーの問題で対応できていない可能性があります。今回新設された低栄養リスク改善加算も多職種連携が基本となりますが、管理栄養士の方に率先して活用していただきたいと思っています。
加藤:新規または再入所の方に限られますが、私たちがこれまで利用者の方に「何とかして食べていただきたい」と食事形態を工夫したり、個人個人の嗜好に合わせたりしていたことを手厚く評価していただけたのだと解釈しています。
塩澤:基本的にはそのとおりですが、細かい算定要件については今後公表される報酬告示、通知、Q&A等(編注:平成30年3月22日、23日に公表)を確認していただきたいと思います。
――入所においては、栄養マネジメント加算の要件も緩和され、同一敷地内の他の介護保険施設(1施設に限る。)との兼務も可能となりました。
塩澤:先ほど申し上げたとおり、栄養マネジメント加算はすでに9割近くの施設で算定されているのですが、まだ算定されていない施設があるのも事実です。栄養の問題は非常に重要なので、算定されていない施設にも栄養の目が入るようにしていきたいというのが今回の緩和の目的の1つになります。
加藤:対象となる施設の管理栄養士にはぜひ取り組んでほしいですね。
塩澤:一人で2施設を見るとなると業務が煩雑になる可能性もあります。しかし、効率性を求められているのは介護業界や管理栄養士だけではありません。さまざまな領域、すべての職種に効率的・効果的な働き方が必要とされていますので、ぜひご理解をお願いします。
加藤:栄養マネジメント加算が追加して取れることで、当然ながら収入が増えるわけですから、栄養ケア・マネジメントを実施してきた症例とともにこの加算等による収入を数字で見せ、管理者に増員を訴えていくこともできます。
さらに、再入所時栄養連携加算も新設
管理栄養士同士の連携を評価
――医療機関と介護施設との栄養の連携を強化するため、再入所時栄養連携加算が新設されました。
塩澤:(公社)日本栄養士会が平成29年に実施した「介護保険施設における栄養食事情報の連携に係る全国調査」で、自施設から医療施設に入院(自宅等に退所後の入院も含む)し、再度自施設に入所した者(以下、再入所者)が1年間に1名以上いた施設の割合が97.7%、さらに、以前の入所時に比べて嚥下調整食や経腸栄養の導入等の高度な栄養管理が必要となった再入所者が1年間に1名以上いた施設の割合が77.2%もあり、医療施設に入院した元入所者を再度受け入れる際に栄養管理面の問題が一因で再入所を難渋したり断念したりしたことがある施設は31.6%もありました。我々の最重要課題である地域包括ケアシステムの理念からすると、必要な栄養管理の方法が大きく変わったという理由でなじみのある施設に再入所できないというのは好ましくありません。そこで、介護保険施設の管理栄養士が安心して再入所者を受け入れられる仕組みを整備する必要があると考えました。管理栄養士同士の連携に対する評価は、介護報酬、診療報酬を通じて初めてのことです。
加藤:非常に画期的な加算だと思っています。病院で実施されている退院時の指導やカンファレンスに介護保険施設の管理栄養士が同席させてもらえれば、介護保険施設で栄養管理を可能なかぎりそのままの形で引き継ぐことができるようになります。利用者ご本人はもちろん、ご家族の安心感も大きくなると思います。
次回3年後の改定に向けて
介護の取り組みを論文に
――新しい制度で求められる取り組みを進めるとともに、介護領域の管理栄養士がすべきことは何でしょうか。
塩澤:地域包括ケアシステムの構築という大きな目的に向けてエビデンスに基づく政策や制度を作るため、私たちは常にさまざまなデータを収集し、精査しています。根拠もなく「こうだったらいいのに...」というような思いつきでは、政策や制度には決してつながりません。介護に関しても、皆さんの普段の取り組みによる効果を、査読付き論文の形で表に出していただくことが重要です。査読付き論文は、政策や制度をつくるうえでの基本資料となります。といっても、各施設にいる管理栄養士の方がお一人で書く必要はありません。施設内の他職種のほか、例えば、近隣の大学の先生方や都道府県栄養士会等と連携することもできると思います。現場の管理栄養士の皆さんは日常業務で本当に多忙にされていると思いますが、普段の取り組みの成果を世の中に広めていきたいと思われたら、その成果を査読付き論文の形で発信していくことが大切です。その結果、ご自身の報告が政策や制度につながってくる可能性も出てきます。
加藤:福祉は、"数字"が少ない世界です。生活の場となる福祉施設では、治療を目的としている医療機関のように頻繁な血液検査はありません。福祉では、主に食事摂取量や体重の変動を半年や1年、2年といった長いスパンで見ていくことも珍しくありません。しかし、「再入所時栄養連携加算」も新設され、今後は医療機関の管理栄養士たちとチームを組むことが当然になってきます。日ごろから医療機関や大学などの管理栄養士たちと顔の見える関係になっていれば、論文をまとめる際も協力いただけると思います。私たちも福祉の管理栄養士・栄養士のスペシャリスト集団として活躍していけるよう頑張りましょう。
塩澤さん、今後もよろしくお願いいたします。