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【東京栄養サミット2021レポート #03】「ジャパン・ニュートリション」を世界に! 誰でも無料でアクセスできる英語版で日本の栄養が躍進する

「東京栄養サミット2021」レポート ♯03

【公式プレイベント】『Japan Nutrition』の出版記念講演会の開催

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 2021年12月7日(火)、8日(水)に「東京栄養サミット2021」が開催されます。そのプレイベントとして、12月6日(月)13時より、特定非営利活動法人日本リザルツ、WFP(国連世界食糧計画)主催の会合が東京・永田町にある参議院議員会館の講堂にて行われました。
 このイベントでは、栄養改善をユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC、すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる状態)の達成に不可欠な要素と位置付け、多様化する世界の栄養課題に対して、さまざまなステークホルダーが熱い議論を交わしました。
 さらに、このイベントの最後には、公益社団法人日本栄養士会会長の中村丁次氏の著書『臨床栄養学者 中村丁次が紐解くジャパン・ニュートリション』(以下、『ジャパン・ニュートリション』、第一出版)の英語版である『Japan Nutrition』の出版記念講演会が開催され、中村氏の講演の他、さまざまな方面からジャパン・ニュートリションが世界に発信されることによってもたらされる、世界の栄養課題解決への期待が語られました。

日本の成功体験を世界に発信する「オープンアクセス」

 ジャパン・ニュートリションとは、戦後の日本において、管理栄養士・栄養士が中心となって行った栄養改善の軌跡です。今回の「東京栄養サミット2021」において、日本栄養士会はこの「ジャパン・ニュートリション(=日本の栄養100年)」を世界に発信し、日本の栄養士制度、そして栄養士が広く配置され、活躍している日本の栄養改善の成功体験を、世界の栄養不良の撲滅に役立てたいと考えています。
 英語版『Japan Nutrition』は、2021年11月27日(土)に、シュプリンガー・ネイチャー社から出版されました。出版記念講演会では開会に先立って、公益社団法人日本医師会名誉会長の横倉義武氏から来賓挨拶があり、「管理栄養士・栄養士の皆さんとの絆が深まったのは2011年の東日本大震災での支援活動。日本医師会が立ち上げた被災者健康支援連絡協議会に日本栄養士会も参加してくれて、管理栄養士・栄養士の皆さんが率先して避難所などをまわり健康調査や栄養指導をし、被災者に栄養と食事の支援をしてくださったのは大きな力となった」と振り返り、その活動と基礎となっているジャパン・ニュートリションが英語版の書籍となり、世界中の人々に知られるきっかけとなったことを祝しました。

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 これを受けて中村氏の講演では、日本語版の執筆の秘話と英語版に至るまでの裏話が明かされました。
 「ある言語学者から聞いた話によると、歴史を表す英単語のヒストリーは"his story"。歴史とは何年に何がありと客観的に書かれるものであると同時に、歴史を動かした人物がいる、その人物たちのストーリーでもあるそうです。なので、日本語版の『ジャパン・ニュートリション』では、栄養に関わりの少ない人達にも読んでほしいという思いもあって、私の個人的な経験をおおいに含み、あえて主観的な目線で執筆しました。恩師である故・細谷憲政東京大学名誉教授に『中村君、これからは人間栄養学だ』と毎晩言われたエピソードもその一つです。出版した当初は、『この本は科学的なものではない』と批判を受けるのではないかと思っていました。ところが、シュプリンガー・ネイチャー社から英語版を出しませんかと声がかかり、『なぜ科学誌がこの書籍を?』と、とても驚きました」
 シュプリンガー・ネイチャー社は、世界中の研究者、学生、専門家のニーズに応える学術出版社。日本法人代表のアントワーン・ブーケ氏は『Japan Nutrition』を出版できた意義は2つあると説明しました。
 「1つは、東京栄養サミット2021が開催される年に英語版を出版できたこと。日本が栄養不良を克服してきた100年の歴史を世界中の人々に共有できるのは重要なマイルストーンとなるでしょう。2つめは、『Japan Nutrition』は弊社の機械翻訳プログラムを使って日本語から英語に翻訳した初めての書籍です。この自動翻訳のテクノロジーを利用して、著者の中村先生に確認してもらうという作業を繰り返して英語版ができあがりました。さらに、中村先生から世界中の学生をはじめできるだけ多くの人々に読んでもらいたいというお話をいただいて、全文を無料でダウンロードできる『オープンアクセス』にしました。今すぐに、誰でもスマートフォンやパソコンで読むことができます」
 中村氏は翻訳中のエピソードとして、英語監修者から「『心のこもった料理』とはどんなものですか?おいしい料理ですか?高価な料理ですか?」と質問が届いたことを明かしました。そして、「料理に心などないのでたしかに不思議な言葉です。日本人は『心のこもった料理』と言われれば共通して思い描くものがあるということに気が付きました」と、言語だけでなく、食に対する感覚の違いを実感したことを述べました。実際に、『心のこもった料理』はどのような英語で表現されているか、英語版で探してみるのも面白いかもしれません。

ジャパン・ニュートリションで世界に貢献していく

 出版記念講演会の歓談の時間には、さまざまな立場から祝辞やジャパン・ニュートリションにおける活動、意気込みなどが述べられました。
 味の素株株式会社社長の西井孝明氏は、「このコロナ禍で読んだ書籍のなかで最も面白い本だったと思います。ヒューマンタッチで、人々のやりとりがまさに物語として表現されており、感動しました。特に2008年に国際栄養士会議を日本に招致したエピソードには私も涙しました。栄養は伝道師がいないと普及させるのは難しいということが、この本でよくわかりました。中村先生は著書の中で栄養士を他国でも養成して国際貢献をすると明確に書いています。人生100年時代ですから、中村先生には栄養改善の国際貢献の舞台をますます引っ張っていただきたい」と激励の言葉を述べました。

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 また、公益社団法人秋田県医師会会長の小玉弘之氏は、「秋田は保存食に多くの食塩を使うことから脳卒中の死亡者も多いのですが、書籍内の『栄養改善の歴史』の章にもあるように、管理栄養士・栄養士や食生活改善推進委員の力でかなり減塩の傾向にはなってきました。引き続き、栄養士会と連携をして食生活の改善をしていきたいと考えています」と、地域でのジャパン・ニュートリションの推進を宣言しました。
 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所国立健康・栄養研究所国際災害栄養研究室室長の笠岡(坪山)宣代氏は、「災害時に支援活動をする管理栄養士・栄養士の専門家集団(JDA-DAT)は日本で初めて誕生したものです。災害時の栄養もジャパン・ニュートリションの一つで、この分野も日本がリードしていけるように、"evidence to action"をモットーに研究や実践を進めています」と力強く語りました。
 また、参議院議員で医師の自見はなこ氏から届いた手紙が披露され、「栄養は、途上国はもちろん先進国であっても、社会保障政策を実現するうえで大切なものです。『ジャパン・ニュートリション』の英語版によって、全世界で栄養の理解が深まるものとなるでしょう」と期待が寄せられました。
 中村氏は講演の中で、「このような英語版の出版ができたことは、多くの人のおかげです」と謝辞を述べました。多くの人々の力によって英語版が無料で誰でも簡単にアクセスできるようになったこと、それは人々の期待の表れです。日本国内にとどまらず、世界中の多くの人がジャパン・ニュートリションを理解・活用し、世界に展開することで、栄養課題の解決を目指すことが求められています。

緊急的支援だけでなく持続可能な栄養改善へ

 出版記念講演会の前に実施された、第1部から第3部にわたる議論では、国会議員をはじめ、外務省、厚労省などの各省庁、国際機関、研究機関、大学、企業、財団、NGOなどの栄養に携わる多様なステークホルダーが一堂に会し、それぞれのこれまでの活動とコミットメントが発表されました。
 参会された林芳正外務大臣は、「明日からの『東京栄養サミット2021』を前にしたこのイベントで、さらに機運が高まっていると感じます。日本政府もコミットメントを発表しますが、皆さんも国際社会にコミットメントを発表し、具体的に行動をしていきましょう」と呼びかけました。
 日本栄養士会も中村氏が日本で栄養不良を克服してきた歴史を発表し、「現在の国際的な栄養課題の解決には、緊急の食糧支援や経済支援も必要だが、持続可能な栄養改善へと発展させることが大切だ」と述べ、2022年から2030年の間にアジアを中心に栄養士の養成を行い、栄養士制度の創設の基盤を作る支援をしていくことをコミットメントにすると発表しました。
 日本栄養士会は「東京栄養サミット2021」公式サイドイベントとして「ニッポンの栄養100年を、世界へ。世界の栄養課題撲滅に向けて、いま、日本栄養士会が果たすこと」を実施します。

■レポートの続き(#04)を読む

■「東京栄養サミット2021」レポート#01を読む
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