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【講演レポート #01-1】栄養障害の二重負荷、肥満とフレイルの混在に求められるギアチェンジとは?

「平成30年度全国栄養士大会」講演レポート ♯01-1

講演名:鼎談「栄養障害の二重負荷(Double burden of malnutrition)の解決をめざす」
講師:阿部圭一氏(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所国立健康・栄養研究所理事兼所長)、小松龍史氏(前公益社団法人 日本栄養士会会長/同志社大学生活科学部特任教授)、中村丁次氏(神奈川県立保健福祉大学学長/公益社団法人 日本栄養士会会長)

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 多様化する食および栄養課題に対してエビデンスに基づいた正しい情報を発信し、人々の適切な食生活の実現に努めることを目的として、国立健康・栄養研究所(K)、日本栄養士会(N)、神奈川県立保健福祉大学(K)の三者で協働しているKNKプロジェクト。同プロジェクトでは、現代日本の栄養問題を「栄養障害の二重負荷(Double burden of malnutrition)」に特定。2018年の全国栄養士大会のメインテーマを「栄養障害の二重負荷の解決をめざす」に据え、3者で鼎談を行いました。

健康な高齢化のためのギアチェンジを

 鼎談にあたり、まず神奈川県立保健福祉大学学長であり公益社団法人 日本栄養士会会長の中村丁次氏が「現在、世界の栄養問題は一言で表すと、Double burden of malnutritionになる。私たちはmalnutritionを"栄養欠乏症"と習ってきたが、 "栄養障害"という意味を持つ。つまり過剰栄養も低栄養も含まれる。我が国は戦後間もない時期には低栄養を体験し、高度経済成長後は食の欧米化により過剰栄養を経験している。現在は、この低栄養と過剰栄養が混在する第3の状況である。過剰栄養としては中高年の肥満、低栄養としては若い女性のやせ、妊産婦および高齢者、傷病者の低栄養問題が広がっている。今回はエビデンスをベースに、我々管理栄養士・栄養士がこのDouble burden of malnutritionにどう対応していくかを探っていきたいと思う」と、鼎談の趣旨を述べました。

 引き続き中村氏は「メタボからフレイルのギアチェンジ」と題して講演を行いました。
 はじめに、「団塊世代が、要介護になる割合が高まる後期高齢者となる2025年問題が差し迫っている。国家予算の3分の1は社会保障に使われ、介護費用は10兆円から21兆円に膨らむ。かつ、そこにかかわる専門職は38万人も不足すると試算されている。一方で、WHO(世界保健機関)は2015年に出した『高齢化と健康に関するワールド・レポート』で、"典型的な高齢者は存在しない"、"高齢は依存を意味しない"、"高齢者への出資は投資であって、コストではない"等、健康と高齢化に関する認識を変える革新的なステイトメントを発表し、"Healthy Ageing"、すなわち健康な高齢化と呼んでいる。今後、私たちは高齢者の幸福や住み慣れた環境で、心身の機能の維持、増進のための栄養を考えていく必要があるということだ」と、前置きしました。


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現代日本の栄養問題、管理栄養士・栄養士の役割は?

 アカゲザルの実験では、長期にエネルギー制限をしたサルは骨密度が低下し「要介護ザル」となったこと、高齢者の糖尿病患者の食事療法の研究では、血糖コントロールは大事だが、血糖値を下げ過ぎてもフレイルのハザード比が高くなること等の各種の研究結果を紹介し、「高齢者が陥りやすい精神的変化は、食事量を半分にすることでも生じやすいということがわかっている。つまり、病気を治療するだけではなく、元気で幸せな高齢者を増やすために、我々管理栄養士・栄養士はHealthy Ageingの目標を掲げ、栄養状態を維持・改善させるということになる」と提示。そして、高齢者が要介護となる要因として生活習慣病の後遺症が約3割、衰弱・骨折・転倒が約3割である現状から、「要介護の原因の中に過剰栄養と低栄養が混在している」とし、「メタボリックシンドローム(以下、メタボ)対策の目標は循環器疾患や糖尿病等の疾病予防であるのに対し、フレイル対策は単なる病気の予防ではなく身体活動の機能低下の予防が目標である」と整理しました。

 そのうえで国内の研究では、メタボが循環器疾患での死亡の危険因子になっている報告が多数あるものの、「65歳以上の男性では腹囲と循環器疾患の発症の有無に相関がみられないこと」等の報告があることを挙げ、さらに北欧およびフランスの研究から「高齢者はエネルギー摂取が十分でないとフレイルになり死亡率が高まる」というデータを紹介。「メタボ対策からフレイル対策へのギアチェンジはいつどのようにすべきなのか? 境界領域は60~75歳くらいまでの期間と考えられているが、管理栄養士・栄養士がどのようにとらえて栄養の指導を進めていくべきかが現在の最大の課題だ」と問題提起をしました。

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 これについて中村氏は個人的な提案として、「60歳以上あるいは65歳以上には、管理栄養士は個別の栄養指導でメタボよりもフレイル対策に重点を置き、やせの場合にはエネルギーおよび良質なたんぱく質摂取を増やし、筋力低下が見られる場合には運動を負荷することでやせと筋力低下の予防を図ること。さらにこの年齢層においてもメタボに該当する人には高血糖、高血圧、脂質異常など個別のリスクに対応した食事療法を提案していくこと。つまり、生活習慣病のリスクと介護のリスクの両方を天秤にかけ、さじ加減を検討する。このさじ加減こそが、管理栄養士が得意とする任務でなければならないのではないか」と会場の参加者に呼びかけ、「おそらく将来的にはAIを活用した個別栄養管理が必要になり、遺伝情報、生活習慣、臨床検査結果等の情報をAIにかけて、管理栄養士・栄養士が最適な情報を選んで個別の栄養の指導に活かしていくことになるだろう。私たちは新たな栄養の指導を確立していく段階に入っている」と講演をまとめました。

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