【講演レポート #01-2】不適切な減量は将来のサルコペニアを招く?
2018/08/09
「平成30年度全国栄養士大会」講演レポート ♯01-2
不適切な減量は将来のサルコペニアを招く?
続いて、前日本栄養士会会長の小松龍史氏が登壇し、「肥満・肥満症治療における実践栄養学的考察」を講演しました。
小松氏はまず、「メタボリックシンドロームが進行すると糖尿病や高血圧などの生活習慣病を発症し、重症化すると虚血性心疾患等の重い循環器疾患や脳梗塞等を引き起こし、最終的には要介護状態に至る。すなわち、過剰栄養がもたらす内臓脂肪蓄積型の肥満が最終的には高齢期の低栄養を基盤としたサルコペニア、そしてフレイルにつながっていくという視点をもつことが大事だ」と強調しました。
さらに、肥満症あるいはメタボリックシンドロームになると、多くの人々はまず体重を減らすことに取り組むことになるが、そのときに取り組んだ減量方法が不適切だと、体脂肪を減らすのではなく骨格筋などの除脂肪組織を減少させてしまう可能性があることを指摘しました。
不適切な減量は、「肥満やメタボリックシンドロームの人が、短期間に過大な体重減少を目指すことを目標に、自らの判断で単純に1食抜いたり、1回の食事量を単純に減らしたりすることがある。さらに、メディアや業者からの根拠のない不適切と考えられる情報を信用して特殊な食事制限をしたり、減量する必要がない人が減量をしたりする」等を指すとして、「これによりたんぱく質やビタミン・ミネラルの不十分な摂取が続き、除脂肪組織を減少させ、骨格筋量を低下させてしまう危険性がある。このような不適切な減量は日常生活における適切な食生活を確立できなくなり、リバウンドを繰り返す可能性が高い。
つまり、この繰り返しによりますます除脂肪組織を減少させ、高齢期のフレイルやサルコペニアにつながりやすくなると考える。栄養学をバックグラウンドとする管理栄養士・栄養士はこの一連の流れをしっかりと頭に入れて栄養の指導にあたる必要がある」と話しました。
小松氏は、これらの指摘を裏付けるために、いくつかの研究報告を紹介しました。
例えば、肥満者が体重を5%程度落とすために「エネルギー制限を厳しくして5週間という短期間で行った場合」と、「エネルギー制限を緩やかにして15週間と時間をかけて行った場合」を比較すると、糖質や脂質代謝のパラメータは共に改善したが、体組成については短期間のほうが除脂肪組織の減少が大きかったという報告や、自身が医療現場で働いていたときの研究として「厳しいエネルギー制限をした場合には、たんぱく質摂取量も落ちやすくなるため、たんぱく質補助食品を用いて摂取量を多くすると、体重減少の速度がはやくても窒素バランスを改善させ、除脂肪組織の減らしすぎを防ぐことが可能であった」、「2型糖尿病でBMI=33の肥満患者の事例として、入院中は厳しいエネルギー制限を行ったため除脂肪組織も減少したが、退院後はゆるやかな食事療法で体組成を確認しながらたんぱく質量を考慮した栄養指導を行ったところ、4か月間でさらに6㎏程度減量でき、この間は除脂肪組織を維持し、体脂肪量のみを順調に減らすことができた」等を報告しました。
「管理栄養士による十分な栄養学的配慮と行動科学的手法を用いた継続的できめ細かい栄養指導によって、肥満症あるいはメタボリックシンドロームの対象者に対して、除脂肪量は減らさずに脂肪量のみを減らすことを徹底できる」と呼びかけました。
また、肥満症および高度肥満症を伴った患者に対して、減量時の摂取エネルギーを標準体重当たりで設定する場合が多いことに、次のように疑問を呈しました。
「たとえば163㎝、80kg、BMI30.1の50歳女性。身体活動レベル1.5の対象者を想定すると、1日の消費エネルギーは約2250kcalと推定される。標準体重は58.5kg。この女性に1日標準体重1㎏当たり25kcalのエネルギー量を指示すると仮定すると1460kcalとなる。これは摂取エネルギーをおよそ-800kcal、30%制限することになり、10%(=8kg)の減量に約3カ月で到達すると考えられる。このような厳しいエネルギー制限では除脂肪組織の減少が起こりうるのではないか。また、特別な食事制限のためリバウンドの危険性もある」
そこで、小松氏は骨格筋を含む除脂肪量の減少や将来の低栄養やサルコペニアを予防する観点からの個人的な提案として、「標準体重をベースにしたエネルギー量設定を行うのではなく、目標体重(この事例の場合、体重比10%減量後63㎏)を維持させるようなエネルギー量設定にすべきだと思う。6か月程度をかけて目標体重に到達させて、到達したらその食生活をそのまま持続させると、目標体重も維持できる。行動科学的に時間をかけて望ましい食生活を確立できるように、管理栄養士・栄養士は指導をしていく。その際のたんぱく質量も標準体重当たりではなく、少なくとも目標体重もしくは現体重当たりで設定し、十分な量を摂取できるようにすることが望ましいのではないか」と提案しました。
最後に、「管理栄養士・栄養士は、メタボの方にも糖尿病や肥満症の方にも、減量中のモニタリングを適切に行うこと。体重減少や血液検査値のみにとらわれず、体組成を確認し、特に除脂肪組織、筋肉量の減少を見過ごさないことが不可欠だ」と改めて強調しました。
講演資料ダウンロード
日本栄養士会会員の方は、当講演の資料を記事最終ページよりダウンロードいただけます。
また、他講演の資料や日本栄養士会の資料は「日本栄養士会の資料」ページからダウンロードいただけます。